幕間で必ずトイレに行く

ほぼ自分用メモ

改竄「熱海殺人事件」

www.atami2020.jp

 

ザ・ロンゲストスプリングと、モンテカルロイリュージョンという2つの演目が公演によってに分かれている公演でした。キャストも全然違いますし、私が見たのはロンゲストスプリングなので、おそらく脚本も全然違ったと思います。共通点はつかこうへい先生作の「熱海殺人事件」がベースとなっていること。

 

東京公演:紀伊國屋ホール:2020年3月12日〜30日(モンテカルロイリュージョン12公演、ザ・ロンゲストスプリング12公演、合計24公演):全席指定:7,000円

大阪公演:COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール:2020年4月4日〜5日(ロンゲストスプリングのみ3公演):全席指定7,300円

福岡公演:イムズホール:2020年4月11日〜12日(モンテカルロイリュージョンのみ3公演):全席指定7,000円

 

東京公演の一部、そして大阪と福岡がコロナのせいで残念ながら中止になってしまいましたが、私が訪れた公演では紀伊國屋ホールの入り口にキャスト&スタッフ全員平熱です!っと貼ってあって、なんというか社会科の教科書に載る一場面感があってすごかったです。早く平常が戻るといいですね。

 

前述の通りロンゲストスプリングしか見ていないのでロンゲストスプリングの覚書になってしまいますけどお付き合いください。

 

熱海殺人事件ていう演目は何回か見ておりますが、毎回違う印象があるように思います。売春捜査官バージョンも過去に見たことが有りますが、何よりこの作品を象徴するのは木村伝兵衛部長刑事であることは間違いないと思います。木村伝兵衛を演じることは私の中では一つのステータスに足りると考えており、選ばれた人こそが木村伝兵衛にたどり着ける…ような気もするし、誰でもなっていいような…気もします。(←かっこいいこと言おうとして失敗してる。)

しかし熱海殺人事件(及びその派生作品)という演目において、木村伝兵衛を誰が演じるのかはかなり重要であるように思います。

 

 

熱海殺人事件、ざっくりいうと熱海で人を殺してしまった事件を、木村伝兵衛が自分好みの事件に仕立てようとするお話です。

 

生まれて初めて熱海殺人事件に触れた時は木村伝兵衛に対して「この人一体何がしたいの??」という気持ちでいっぱいでしたが、それから何回か見ているのが不思議な話です。

 

私が過去に見てきた”木村伝兵衛が男だった”熱海殺人事件は大体この4名で構成されています。今回のロンゲストスプリングもそうでした。

 

木村伝兵衛:優しいのか何なのかわからないけど変な人、えらい刑事、チャイコフスキーが好き

水野朋子:伝兵衛の愛人、地元に婚約者がいる(伝兵衛未婚なのに愛人てのも変だよな)

熊田留吉:田舎から出てきた刑事(多分作品によって故郷が違う)

大山金太郎:熱海殺人事件の容疑者、貧しい青年、通称金ちゃん

 

アイちゃん:熱海で殺されちゃう女の子(アイちゃんだけは水野を演じた女性キャストがそのまま演じる)金ちゃんと同郷。都会に出てきて都会の絵の具に染まった子。

 

これまでの熱海殺人事件のイメージって まだまだ若い金ちゃんが田舎から出てきて、都会に染まってしまったアイちゃんに失望して殺しちゃう…みたいなイメージだったんですよね。なので、私は割と金ちゃんに同情してしまうとこがあって、熱海殺人事件とは金ちゃんみたいなワーキングプアを生み出してしまう格差社会に物申したいのかな…と思うことが多かったのですが、ロンゲストスプリングは男女の愛が主軸って感じでした。

そもそもこのロンゲストスプリングっていうのも何を意味するのかというと、伝兵衛と水野婦人刑事の”長すぎた春”を表しているということだったので、社会的に成就(結婚)することがなかったけれど、静かに燃えつづけていた水野と伝兵衛の愛の形が表現されていました。

私もそんなに詳しいわけではないのですが、つかこうへい作品って男女の激しい愛がよく取り上げられていますよね。直近では飛龍伝2020も観劇したのですがそっちも激しかったです、愛が。

 

私が過去見てきた熱海殺人事件と比べて今回の伝兵衛はより人間らしかったような気がします。なんというか、優しさがわかりやすい。いつもの伝兵衛はマジで単なるキt…愉快犯て感じすらするんですけど、今回の伝兵衛は人間だった。水野と初めてセックスしたときの少し恥ずかしいエピソードを暴露されるくだりがあったりしたからかもしれない。伝兵衛も失敗したりするんだなぁという感じ。あと実は育ちが良くないという設定も舞台上で語られるからかも。今までの伝兵衛はいいとこの坊っちゃん感があったんで、貧乏人をおちょっくってんのか?ってマジで思ったことすらった。本当は多分過去の伝兵衛みんな優しいんだけど、初めてみたときはマジで伝兵衛が何考えてるのかわからなくてそう思ってた。今回の伝兵衛は優しさがわかりやすい。人間だった。

 

あと過去のどの金ちゃんより今回の金ちゃんはひどいやつでした。貧乏のくせに子供をたくさん作ろうとする上にアイちゃんにその世話を押し付けてきそう。なんならアイちゃんに対して「女にはちゃんと男がびしっと指導してやんないと!!!!」っていうし。今までの金ちゃんはもっと可愛げがあったのに…と、金ちゃん同情派の私からはショックでした。

 

これまでは都会の絵の具に染まりたい(でも多分完璧には染まれていなくて都会の人にバカにされる)アイちゃんと、どうしても田舎臭さが抜けない金ちゃんのウブいラブが貧困によって捻じ曲げられてしまう悲しみの方があったんですけど、今回は金ちゃんがマジでクズかった。なんだろな…同行者いわく今回は役者さんが30歳超えてる方だったからではないかと指摘を受けました。私の金ちゃん像は18〜19歳くらいで、高卒で都会にやってきたイメージなんですけど、今回の金ちゃんは「その年までそんな常識知らずで貧乏で、人に騙されて、で、アイちゃんに対して指導がどうとかいうのか…」と思った。で、最終的にアイちゃんに手をかけてしまう。

 

ああ…金ちゃんって犯罪者なんだな...

 

すっごい今更なんだけど、コレ今回初めて思った。

 

伝兵衛が水野との関係性について話す折、「水野くんは一歩踏み込ませない女」っていうんですよね。で、金ちゃんには「一歩踏み込めずにいる我々と、一歩踏み込むことのできた容疑者」っていうんです。コレまでの金ちゃんを見ていると、その「一歩」は、誰もが踏み出してしまう可能性のある危うい一歩だと思ってたんですけど、今回では、最後の一歩を踏み込んでしまう人は限られていて、普通の人は絶対踏みとどまる一歩なんだな...と思いました。もしかしたら直前で「ケーキの切れない非行少年たち」を読んだせいかもしれないですけど...

 

ケーキの切れない非行少年たち (新潮新書)

ケーキの切れない非行少年たち (新潮新書)

  • 作者:宮口 幸治
  • 発売日: 2019/07/12
  • メディア: 新書
 

 

終盤で、金ちゃんが伝兵衛に叱責されて体育座りでちっちゃく座ってる姿がすごい印象的でした。なんでかはわからないんですけど、その姿から、一歩踏み出すことのできた異常性を持ち合わせた青年であることを改めて感じました。

 

何はともあれ、観劇が叶って良かったです。